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著作者の権利の制限①(適法な引用)

この話の登場人物


  T弁護士

来人(らいと)君

かつてN弁護士の個人情報保護法のクラスで講義を受け、

近頃、マーケティングや広告のコンサル事業を起業。 


 


T先生、大変です!!





おや、らいとくん。お久しぶりですね。





ちょっと事件が起きて、T先生に相談しにきました!





一体どうしたのですか?




僕の著作権を侵害されたのです!





なんと。





この前、新進気鋭のスタートアップ企業を特集するネット記事が作られ、そのうちの1社として当社のことが紹介されたんです。






良かったじゃないですか。





それ自体はありがたいんですが、当社が取材を受けたり、事前に許諾を求められたりしたことはありませんでした。ネット記事を見てみると、当社のウェブサイトで公表している僕のメッセージが、そのまま抜き出されて貼り付けられたんです。





ほお、このメッセージですか。『らいとが照らす、明るい未来へ・・・(中略)・・・全力でお手伝いします。合言葉は、That’s ライト!!』、・・・ふうん。





これって複製権侵害とか公衆送信権侵害になりますよね?






らいと君、実際のネット記事を見せてもらえますか?




このウェブサイトです。





・・・ふむふむ、なるほど。




損害賠償とかできそうですか?






らいと君、残念ながら、このネット記事でのメッセージの掲載は、著作権法で許される行為の可能性が高いです。損害賠償や差止めは難しいでしょう。




ええ!?なんでですか?魂のこもった僕のメッセージをそのまま掲載しているんですよ?





らいと君、著作権法では、一定の方法による著作物の利用が著作権侵害にあたらないという例外規定を、数多く設けています(著作権法30条以下)。このような権利制限規定がなぜ必要か、分かりますか?





分かりません!

なんで著作権侵害じゃないんですか!?





まあまあ落ち着いて。では、著作権法の目的が何だったか、思い出してみましょう。




ええと、たしか、文化のため?






そうです。著作権法の目的として「文化の発展に寄与すること」が挙げられています(著作権法1条)。





文化の発展と、著作権の行使が制限されることとは、何の関係があるのですか?





文化の発展のためには、著作者の権利の保護と、著作物の自由な利用とのバランスを図ることが重要です。いかなる場合でも著作物の利用に権利者の許諾を求めるのではなく、文化の発展に寄与するような一定の場合には、著作物を自由に利用できるようにすべきことも必要ってことです。




じゃあ今回、僕のメッセージが掲載されたのは、どの権利制限規定にあたるっていうのですか?






ずばり、適法な引用の例外にあたるものと考えられます(著作権法32条)。




適法な引用??





他人の著作物に対して意見を述べたり、批評したりすることは、憲法21条で保障された表現の自由の観点から、できる限り尊重しなければなりません。そのように、意見を述べたり批評したりするために、他人の著作物を引用することを、一定の要件の下で認めたのが、著作権32条の規定です。





表現の自由か・・。著作権法の話から、急に憲法上の権利の話になりましたね。






らいと君、私個人としては、著作権法の権利制限規定と、表現の自由とは、切っても切れない関係だと考えていますよ。アメリカのフェアユースの議論でも、表現の自由を保障する合衆国憲法修正第1条が常に意識されていると感じます。





それで、適法な引用と認められる要件って何ですか?






要件については、様々な議論があるところです。古くは、引用して利用する側の著作物が引用される原著作物との間で明瞭に区別・認識されること、及び、前者が主、後者が従の関係にあることが必要とした最高裁判例(昭和55年3月28日・民集34巻3号244頁(パロディ・モンタージュ写真事件))がありました。その後、当該最高裁判決の2要件に拘らず、引用の目的や様態、また利用される著作物の性質や、引用によって原著作権者におよぼす影響などを総合的に考慮すべきという考え方(総合考慮説)も有力になりました。





で、結局、今の主流な考え方はあるんでしょうか?






例えば文化庁が公表しているテキストでは、下記の4つの要件を満たすことが必要と解説されています(文化庁著作権課「著作権テキスト~初めて学ぶ人のために~令和3年度」87頁)。実務的にも、著作権法32条が問題になる場合には、この4要件が検討されることが多いのではないかと思われます。


(1) すでに公表されている著作物であること

(2) 「公正な慣行」に合致すること(例えば、引用を行う「必然性」があることや、言語の著作物についてはカギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること。)

(3) 報道、批評、研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であること(例えば、引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であることや、引用される分量が必要最小限度の範囲内であること)

(4) 「出所の明示」が必要(複製以外はその慣行があるとき)





僕のメッセージを掲載したネット記事は、適法な引用の要件を満たしているのかな?







要件(1)について、らいと君のメッセージは会社のウェブサイトで公表されていましたね。





はい。





要件(2)について、今回のネット記事では、スタートアップ企業の事業だけではなく、若い起業家も紹介しているところ、らいと君の人物紹介のためにメッセージを紹介する必要性はあるといえますし、カギ括弧を利用して引用部分が明確にされています。






たしかに。





要件(3)について、ネット記事の全体の分量と比べ、らいと君のメッセージ部分は、ごく一部に限られることから、主従関係が明確になっていますね。





そうですね。






最後に要件(4)について、ネット記事の中では、らいと君のメッセージが掲載されていた会社のウェブサイトの名称やURLがきちんと表示されており、出所の明示もあります。




本当だ。






そのため、私としては、適法な引用として認められる可能性が高いと考えました。




でもでも、「引用される分量が必要最小限度の範囲内」じゃないとダメなんですよね。僕のメッセージみたいな著作物の全文引用は許されるんですか?





引用される著作物の長さによります。メッセージ文や俳句のように、比較的短い文章で、その一部だけを抜き出すと意味が分からないような場合には、全部の引用が認められることもあると思われます。これに対し、論文のような長い文章は、その全部の引用は認められないことが多いでしょう。





そうか。わかりました、今回は、会社の宣伝にもなったから、良しとします!





前向きにいきましょう。





ということは、適法な引用の要件を満たせば、僕も他人の著作物を使用することができるのですよね?






できます。でも要件を満たすかは慎重に検討してくださいね。





適法な引用以外には、どんな権利制限規定があるんですか?





たくさんありますが、次回は、よく問題になる私的複製の例外(著作権法30条)について解説します。




よろしくお願いします!






最後にクイズです。今回のらいと君と私のやり取りの中で、著作権法32条に基づき引用された部分があります。どこでしょうか?





本当ですか!?もう一度最初から読み返して復習します!





(2023年3月27日公開)



※クイズの正解は、「文化庁著作権課「著作権テキスト~初めて学ぶ人のために~令和3年度」87頁」から引用した、適用な引用の4要件です。


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