商標って何？⑤ 商標の要部とは

この話の登場人物

　　N弁護士

来人（らいと）君

かつてN弁護士の個人情報保護法のクラスで講義を受け、

近頃、マーケティングや広告のコンサル事業を起業。

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ささっ、らいと君、皆さん、チョコレートケーキと、イチゴショート、お土産にはチーズケーキもありますから、今日の講義はケーキを食べながらリラックスして聞いてね。

先生、どうしちゃったんですか？満面の笑み（マスクだからよくわかんないけど）にケーキまでふるまってくれるなんて・・・。

SSAでのコンサート、当選しました！！！らいと君のくじ運のおかげよ。おまけにタイガースのうちの3人がゲストで来られるってOfficial Siteで発表されて。この数日は、ザ・タイガースのYouTubeやDVDしか見てないの。

　（※N弁護士によれば、You Tubeはストリーミングのみで、DVDは5枚セットをちゃんと購入したそうです。）

はあ、それで目の中に💛があるんですね。

でもよかったですね。僕もお役にたててうれしいです。

そうそう、何着ていこうか、髪型どうしようかって、いろいろ考えなきゃいけないこともあるんだけど、今日は張り切って講義するわね。

（今回も、上機嫌でいろいろ教えてくれそうでよかった。でもまだ4か月も先のことなのに・・・。）

今日は、要部の話でしたね。前にも言ったけど、沢田研二さんの愛称Ｊｕｌｉｅは、商標登録されていますが、この商標には、いわゆる要部という概念はありません。全部そろって、はじめて商標としての意味、「自他識別性」を持つからです。

それとこの間、アメリカに行くときに成田空港で買わせてもらった、ラングドシャ「白い恋人」にも要部という概念はありません。この2つの登録商標に要部がないっていうのは、まったく意味が違うんですよ。どういうことかわかりますか？

「Julie」の商標に要部がないっていうのは先生、ご自分で言ってましたよね。全部合わせて意味を持つからだって。「白い恋人」は、「白い」と「恋人」に分けてもどっちも意味がありますよね～。なんで要部がないんだろう？？？あ、わかった！先生の言った意味、「識別性」に関係するんですね！

さすが、チョコケーキの威力は絶大ね。そのとおりです。

ケーキじゃなく、僕の頭がいいって言ってくれないと・・・。

脳は糖分しか消費できないって聞いたことがあります。きっとケーキの中の糖分がらいと君の頭に作用して、なんて言っていたら、みんながケーキ食べ終わってもまだ半分も説明できてないってなっちゃいますね。そう、「白い」も「恋人」も両方とも普通名称で、そのどちらかが要部として、一社が独占していいってことには出来ませんよね。でも「白い恋人」って合わせると、特別な識別性が出てくるでしょ！だからこの商標にも要部がないっていったわけ。

僕も北海道にスノボに行くと「白い恋人」お土産に買いますけど、なんだっけ、大阪で「面白い恋人」っていうお菓子を売って問題になりませんでしたっけ。

よく知ってるわね。そう、「白い恋人」という菓子の類の商標権をもつ、そのラングドシャの製造メーカーさんが、「面白い恋人」を売り出した、吉本興業を商標権侵害で、2011年11月に札幌地裁に販売差止めと製品の廃棄を求めて提訴したみたいです。

1年ちょっと後に「面白い恋人」の1年間の売上げの6億円の20％の賠償まで求められたようですが、最終的には、パッケージデザインを変更すること、関西6府県でしか販売しないってことで、賠償はなしということで和解されたようです。みたいとか、よう、とかでごめんなさいね。判決にならないと新聞記事でしかわからないのでこんな言い方になってしまいます。

そんな結末になったんですね。これ判決まで行ってたら、先生、どうなってたと思います？

面白い質問ね。私は原告は結構苦労されたんじゃないかと思うの。新聞記事では、提訴の時に、全然面白くない！って記者会見で社長さんがおっしゃってたみたいだし、そのお気持ちは私もとってもよくわかります。「白い恋人」ってなんかロマンチックなかんじで、おしゃれなイメージなのに、「面白い恋人」って名前になったら、「なんでんねん！」って感じでエレガンスのかけらもないもんね。いやあJulieも歌ってらっしゃるときは、それはそれは、美しいって感じだけど、コントの時はわざとかなあ地のべたな京都弁だもんね。そうすると面白さ倍増で。。。

いや先生、今あの「要部」とはって話をしてたんですけど。

ああ、そうでした。どころかまだ要部がない商標の話の途中ですよね。そう、「白い恋人」と「面白い恋人」ともに、要部がないので、前回お話しした、観念があまりに違うので、称呼とか、外観が一定似ていても、総合評価すると、これは一種のパロディだな、やっぱり大阪やねえ、北海道の雪の白さとは違うやんって、間違わへんてってなった可能性もある気がします。

　というわけで、報道記事からはあんまりはっきりしてなくて、原告の代理人もきっと主張されていたと思うのだけれど、商標権侵害だけではなく、著名商品表示の侵害っていう不正競争防止法違反を付け加えたかなあ。これは、商標とは違うんだけどとっても有名になった商品の表示のイメージが損なわれる場合に、侵害だって言えるってことなんです。わかりやすいのが、ラブホテルシャネル事件（※神戸地裁昭和62年3月25日判決）、シャネルは、シャネルスーツに代表されるように、服飾の高級ブランドですよね、それが、ラブホテルの名前に使われることで、このホテルはシャネルが経営してるんだって誰も思わないけど、「シャネル」の持つイメージが壊れる（希釈されるって専門用語ではいいます）として、侵害成立となりました。。

でも先生、それって、「面白い恋人」がなんか、イメージ悪いみたいに聞こえますけど。

おっ、さすがにあなたも関西人、この洒落がわからへんのか？って言いたいんやね。

そこまではいわへんけど、ええセンスしてはるって思います。

私も真面目なセミナーでもついつい落ちを探すもんねえ。関西人のサガやなあ。

そろそろ標準語に戻していきましょう。まだどんな商標に要部があるのかって話まで行ってません。

そうでした。まず、基本的には、商標は全体で、観察して、類似性を判断します。要部の検討が必要となるのは、全体としての一体性が弱く、「付加的」と認められる部分がある場合のみ、それ以外の部分を「要部」としてこれを類似性判断の観察対象にします。ご紹介するのは、キリン株式会社さんが、「キリンコーン」って商標を認めた審決を自らの「キリン」とか「麒麟」、「KIRIN」などの商標と類似しているからって、審決の取り消しを求めた事件です。

これって確かに、2つのことば、キリンとコーンが合わさっているけど、白い恋人と同じで、両方とも普通名称だから、要部ってないんじゃないんですか？

あなた弁護士になるのもいいかも。はい、商標権者さんの被告さんはそう主張されましたし、どちらが強いってわけでもない、また、これは野菜として売られていたとうもろこしに対する商標だったんだけど、美瑛町の旭山動物園、ほら、ホッキョクグマさんが観客の方にド～ンと泳いでといういか水に飛び込んできてくれる、動物園が近くにあることから、白熊コーン（白）、ライオンコーン（黄）とか象もろこしに加え、バイカラーのトウモロコシに、キリンコーンって名付けたんで、キリンビールが主力商品の原告の名前を冠したわけじゃないって反論されました。ふむふむって感じよね。

僕は雪目当てでしか北海道に行ったことがないから、旭山動物園行ったことないんですが、あの展示の仕方は、僕たちもマーケティングのために勉強しました。すごいですよね。あの発想。

私は行ったことがあるのよ、大迫力だった。ただ、この事件、裁判所は、キリンとコーンの2つに分けられ、キリンの方が強くて、かつ原告のさっき言った商標と類似しているとして、特許庁の審決を取り消したの。※知財高裁平成31年3月12日判決

へえ。まあキリンが商標登録されちゃってるんだから仕方ないけど、でも動物園にいるきりん見て、キリンビール思い出す人っていないと思うし、なんか、変な感じ。

原告さんにとっては、まさに自社の商号にもなっているし、もともとは想像上の動物とも日本では言われていたから、まあこの「キリン」部分が要部って言われれば、そうかとも思うけれど、なんとなく釈然としないわね。

なんだかこの間からよくわからないことだけがわかってきました。先生が最初商標って難しいって言ったのは、こういうことだったんですね。でも商標って大事なんですよね。難しいことは先生たちに任せないといけないってことかな。

まずは弁理士さんにうまく登録してもらうことね。良くしてくださる先生も存じてるから、お客様から紹介を求められたら、言って。コンサートチケット当選のお礼、ケーキだけじゃなくて、ちゃんといい先生をご紹介するから。商標のお話は基本的なところはこれくらいにしておきましょうね。次は不正競争防止法の周知表示とか今日の話に出てきた著名表示についてお話ししたいけど、商子さんも聞きたいと言っていますから一緒でもいいかしら。

（2023年3月1日公開）