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パブリシティの権利って何?

この話の登場人物


  N弁護士

来人(らいと)君

かつてN弁護士の個人情報保護法のクラスで講義を受け、

近頃、マーケティングや広告のコンサル事業を起業。


 




あら、らいと君お久しぶり。元気にしてた?





お久しぶりって、先生がなんだかバタバタしててって、なかなかお邪魔するチャンスくれなかったじゃないですか?






いやあ、大学で講義することになって、毎週足が痛いのなんのって、おまけにT先生も独立しちゃって、てんやわんやだったのよ。





はい、T先生、エンターテインメントの法律など、頑張ってられるんですってね。






うん、少し落ち着かれたら、またいろいろ教えてもらえるわよ。ところで今日はなあに?





いや、先生、ある有名な歌手の方の写真(ジュリーじゃないですよ)が、遠景なんですけどね、写った写真をクライアントの人が広告の写真に使っちゃって、いやまだ何かクレームがあったってわけじゃないんですけど、すご~く気にされてるので、何が問題なのか知っておきたいと思って。





あなたは、そのクライアントさんからもし相談を受けても具体的なことは対応しちゃだめよ。弁護士法72条で弁護士以外の人が報酬を得る目的で法律相談を受けることは原則禁止されています。





えっ、そうなんですね。じゃあ、今日はもう帰ります。







せっかく来たんだから、一般論を話してあげるので、一般論として、それに関してはフィーをもらわずに、伝えてあげてください。そもそも今の写真の話、何が問題になると思う?







有名な方なんで、肖像権が問題になるのかと・・・。




肖像権は、有名じゃなくても、誰にでもあります。勝手に顔かたちが判別できる写真をその写っている人の同意なく、広告だけでなく、一般の人が見られるような形で使ってしまうと、肖像権侵害になります。とはいうものの、肖像権っていう権利を具体的に認めた法律はありませんが。





先生、今日なんか言葉堅いですね。なんだか、居心地悪いです。





えっ、様子で分かる?ここ数か月、申し込んでも申し込んでも落選で、何にも楽しみがないので、落ち込んでるだけよ。






それは、つまり、ジュリーのコンサートのってことですね。





そりゃくじ運が悪いのは昔からだけど、4回チャレンジして4回ともはずれってね・・・。でもあなたを引き留めたんだから、ちょっと気合をいれて説明しましょうね。肖像権っていうのは、プライバシーの権利、これも具体的に定めた法律はないけれど、その一種と考えられています。そのほかに肖像とか名前について何か聞いたことない?



この前先生が、名前も商標にできるかもって、話してくれたのでそれかな?




今後は氏名には商標の問題も絡んできますね(商標って何?③ 商標的使用と氏名の商標権 (chizai.info)。でも、もう一つ「パブリシティの権利」っていうのが何度か裁判では話題になりました。





パブリシティ?出版ってことですか?




語源のpublicityには、公表とか、出版って意味もあるけれど、ここでは、氏名とか肖像、それも有名な人の場合、それを広告とかに使う際には、その人が対価をもらってる場合とかあるでしょ?それをパブリシティ権って言っています。これもどの法律にも書いてないんだけど、よく著作権と対比されることがあるわね。著作権は、その写真を撮った人の権利だけと、パブリシティの権利は、その写真の被写体の人にあるの。

ほら、野球カードってあるでしょ?プロ野球の選手が、かっこよく投げてる姿とか打席で構えてるところとか?結構なお値段が付いたりするでしょ?この野球カードに載っている選手には、いくらか対価が支払われているはずです。




ああ、だから有名な人の肖像には、パブリシティって別の権利があるんですね。





そういうこと。この権利は、まずは、アメリカで、権利として確立して、日本にもその考えが伝わったように思います。アメリカでは、対価ってところに注目して、財産的な権利だって考えられているの。




そりゃそうですよね。





というところで面白いと言っては当事者の方に申し訳ないけれど、やっぱり面白い事件が起きました。ギャロップレーサーという、実際にいた、競馬の馬の名前で、ゲームを進めていくというものだったんだけれど、このゲーム制作会社は、馬主さん達から、馬の名前をゲームに使ってよいかって承諾を取っていなかったの。馬主さん達が、ゲーム会社に対して、製造販売の差止めと損害賠償を求めて裁判を起こしました。さあ結論はどうなったと思う?



今までの話からすれば、有名な競馬の馬のゲームだから、売れるって要素もあるんだから、当然、馬の名前にもパブリシティがあると思います!






そうよね。そういうのを「顧客吸引力」って言うので、私の今の説明の仕方からするとそう聞こえるよね。





はい~?!ってことは違うんですね。トホホ。






そんなにがっかりしないで。第一審の名古屋地裁も(平成12年1月19日判決)、控訴審の名古屋高裁(平成13年3月8日判決)も、あなたと同じように、これらの馬の名前には顧客吸引力があるって言って、同意を取っていないのは不法行為だとして損害賠償の成立を認めてたから。





じゃあ最高裁で逆転しちゃったんですか?




そうなの。パブリシティの権利は、財産上の権利ではなく、人格権の一種だとして、馬には人格がないからと(そりゃそうだよね。)、競走馬の名前にはパブリシティ権が及ばない、なので、不法行為にならないとしました(最高裁平成16年2月13日判決)。

  さっき話に出た、人の名前を商標にしていいかって話をしたときに、氏名はその人の人格を表すものだから、商標権っていう財産権の対象にしてよいかっていうのは議論になったって、お話ししましたね。ある意味それと同じかな?




ふうん、でも有名な人はそれでもって、対価を得られるっていうんでしょう。失礼な言い方かもしれないけど、自分の肖像とか、名前を売ってるんですよね。財産権って考えてもいいような。



私はくじ運も賭け事もだめなので、競走馬の名前も本当に有名なのしか知らないけど、北海道のノーザンホースパークに事務所旅行で出かけたときに買ったディープインパクトのぬいぐるみは今も、パソコンのすぐそばにいるものね。顧客吸引力っていえば、競走馬の名前ってすごいものがありますよね。今、また競走馬の名前を使ったゲームも出てきてるものね。あれは馬主さんの同意とってるのかなあ?私は、若いお嬢さんに競走馬の名前を冠して走らせるっていうアニメ風のゲームにちょっと違和感あるんだけどね。



僕はそのゲームやらないのでよくわかんないけど。そうか、人格権なのか。そうそう、本題の遠景に有名人の人が写ってる写真の話は、そうすると、やっぱりパブリシティ権侵害っていわれたら、どうしようもないですね。



その方は今もご存命の方なのね?人格権は、生きている人にしか認められないので、亡くなってる方だとそもそも人格権がありません。それと、遠景に写っているっていうのは、どの程度かで、パブリシティ権が及ぶかは、簡単には判断できないのよ。





はあ、それはまたなんで。






ピンク・レディって、1970年代のスーパーアイドルのデュオのこと知ってる?





もちろん、ジュリーがレコード大賞取ったときの対抗馬って馬に例えちゃ申し訳ないけどダンスの振りがすごくて、その翌年大賞取ったんでしょ。





あなたが生まれるずっと前の話なのによく知ってるわね。






先生のところにお邪魔するには、ジュリーに関連することは十分調査済みです。でもって、なんか僕が子供のころにその振り付け話題になってましたよ。まだTikTokなかったけど。




それはありがとう。そうそう、あなたが知っているそのころに関するお話し。ピンク・レディのお2人の写真を使って、「ピンク・レディdeダイエット」って雑誌に載せた出版社に対して、ピンク・レディのお2人が、無断使用は不法行為になるとして損害賠償を求めた事件がありました。3頁にわたる記事で、14枚の写真を使って振りを解説して、それがダイエットにいいって紹介するものだったの。雑誌を見せてあげるといいんだけど。著作権の問題があるから・・。Googleで後で調べてみて!




で結局どうなったんですか?





第一審は「専ら」その肖像や氏名の顧客吸引力が使われている場合に限ってパブリシティ権侵害が認められるとして、この記事での写真の扱いは、その「専ら」に外れるって不法行為を認めませんでした(東京地裁平成20年7月4日判決)。知財高裁も結論は同じだったけれど、「専ら」は厳しすぎるって、なんか明確な基準を出してない感じです(知財高裁平成21年8月27日判決)。ところが最高裁は、「専ら」基準に戻して、

① 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合、

② 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合、

③ 肖像等を商品等の広告として使用する場合

を例示しました。

あの、ブロマイドってわかる?




はあ?






今そんな言い方あんまりしないかもしれないけど、俳優や歌手の方のまさに肖像写真、はがきくらいの大きさだったり名刺くらいの大きさだったり。それがそのまま売られています。いまでもジュリーの若いころのも売られてるよ!そんなブロマイドが①の場合だと補足意見に書かれています。




ブロマイドも勉強になりました。





なので、写真を拝見しないとわからないけど、遠景に写っているだけで、今言った3つの類型に当てはまらなければ、パブリシティ権は発生しないかもね。また有名人の方は、いわば公人として、写真に撮られることを容認しているとも考えられ、一定プライバシーを放棄しているともいえるから、プライバシー侵害にもなりにくいでしょうね。プライバシーの権利は、パンピー、一般人のこと、こういうんでしょ!つまり私たちの方がある意味強いのよ。一般人が映り込んだ写真の使用はそういう意味では要注意ね。



あれこれ勉強になりました。先生落ち込まないで!またいいこともありますって。ありがとうございました。





(2023年11月8日公開)


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