この話の登場人物
N弁護士
来人(らいと)君
かつてN弁護士の個人情報保護法のクラスで講義を受け、
近頃、マーケティングや広告のコンサル事業を起業。
なんか先生とお話しするの久しぶり。次は類似性よねとか話が出てからずいぶん経っちゃって、みんなを誘いにくくて、今日は一人です。
ごめんね。もうすぐ3年ぶりのアメリカ出張が入るので、てんやわんやなの。
といいながら、なんかうれしそうですね。まあ、みんなも今日は一緒じゃないし、とっても聞いてほしそうだから聞いてあげます。Julieの主演男優賞受賞でしょう!
きゃあ、じゃなかった、さすがに私に会う前にちゃんとニュースチェックしてくれてるのね。ありがとう。本当に素敵なそしてとても考えさせる映画だったのよ、「土を喰らう十二カ月」は。私同じ映画2回見たの初めて、って思っていたら、受賞って聞いて、テンションマックスのまま、アメリカにいきま~す。
追記:第96回キネマ旬報ベスト・テン 主演男優賞受賞しました!
(これで今日は上機嫌でいろいろ教えてくれそう。)
唯一大変なのは、まだ今年の埼玉スーパーアリーナのチケットが手に入っていないこと。うえ~ん。今年の6月25日の千秋楽、Julieのお誕生日、因縁のさいたまアリーナ、いくらくじ運の悪い私でも大丈夫だろうと気楽に待っていたら、なんと落選。えええ~っていうわけで、第2次抽選いつ申し込んだらいいんだろうと今思案中。アメリカから帰ってからのほうがいいかな~。
Julieの人気ってそんなにすごいんですね。僕くじ運いいから、僕と話してから申し込んだら今度は大丈夫ですよ。しっかり、「類似性」の話をしていただけたらね。
え、くじ運いいの!私あれから、商店街のクリスマス抽選会も行ってないの。変なところでくじ運使っちゃいけないと思って。Julieのコンサートの分だけでいいから分けて!!!しっかり、講義するから。
OK、OK(うん、いい感じ。)
では、類似性の話、商標が類似しているかは、今からいう三つのどれかが似ていれば、類似性があることになるといわれてきましたが、判例は、全体的に観察して似てるかって、取引の実情にかんがみて判断するという基準を取っています(最高裁平成9年3月11日判決)。もうすぐお節分ですよね。今年の恵方は、南南東だったそうですが・・・
あの商標の類似性と恵方巻ってなんか関係あるんですか?
この最高裁の判決は、「小僧寿し」さんというおもちかえりずしの寿司屋さんが被告だったの。恵方巻は、恵方を向いて黙々と食べるので、お持ち帰りずしの小僧寿しさんにとっては書き入れ時だったかなって思ったわけ。同じ商品の類で、「小僧」っていう登録商標を持っている人がこの小僧寿しさんを訴えたんです。最高裁まで争われて、最後に、最高裁は、取引の実情にかんがみ「外観」、「観念」、「称呼」の類似性を総合評価してうんぬんかんぬん、よって非類似、小僧寿しって使い続けて良いって言ったのよ。
そんないろいろ「かんあん」してたら、何が類似かわからなくなるじゃないですか?
この事件商標権者の代理人は、学者としても有名な方で、私も生前を存じ上げているのだけれど、商標は死んだとおっしゃったという逸話が残っています。でも、まあこの最高裁判例は横において、基本はこの3つの要素の一つでも類似であれば、類似性ありってされているし、最高裁判例風に総合観察っていっても大事な要素だから説明しますね。
くじ運分けてあげるって言ったら、いきなり、モード変わりましたが、称呼?呼称の言い間違えですか?
似たようなものだけど、ここでは称呼(しょうこ)っていいます。まあ音が似てるかってことね。「外観」は字の通り、見た目、難しいのは「観念」ね。その商標がもつ意味内容ということです。
意味内容って、そんなに深刻に考えずに、作る商標もいっぱいあるんじゃないんですか?音がいいからとか。
そうね。観念が同じってだけで、類似性があるとされた事件というのはあんまり聞いたことがないんだけど、ないこともないのよ。例えば、「遠山の金さん」ってわかる?
時代劇で、お奉行様が片肌脱いで、この桜吹雪が・・てやつですか?
時代劇なんて見るの?
時代ものだってアニメとかじゃ人気ですけど、別に遠山の金さんを見ているわけじゃなくて、コホン、教養として知っているということです。
なるほど。その「遠山の金さん」は東映さんの登録商標なんだけど、「名奉行金さん」っていう標章が登録されそうになった事件で、自らの登録商標と類似しているから、認めるなって主張して、知財高裁はこの東映さんの主張を認めました(知財高裁平成23年2月28日判決)。音も「キンサン」以外一緒じゃないし、見た目も「金さん」以外まったく違いますよね。それでも名奉行金さんっていったら、遠山金四郎さんって意味でしょうと裁判所は考えたんでしょうね。金四郎さんなんてまるで知人のように言っているけど、私も江戸時代のことまではよくわからないんだけどね。
でも先生、キンサンは、音も見た目も一緒じゃないですか?遠山より、名奉行より、キンサンっていうのが大事だったんじゃないですか?
あなた、よく考えているわね~。そう私も話をしながら、あれっ?て思いはじめていたの。実は、商標の類似性を考えるときにもう一つ大事なことがあって、それはその商標の要部がどこかってことなんです。
要部、重要なところってことですか?
そう、要部が商標の類似性判断をすべき部分となります。
遠山は、名字だから、そもそも関係ないし、名奉行は何も遠山金四郎さんだけじゃなくって大岡裁きで有名なお奉行様もいらしたとすると、この部分は、普通名称だから要部ではないことになります。となると、着目すべきは「きんさん」外観も称呼も同じってなるわね。(あれえ~何のためのこの判例紹介したんだっけ、基本書には、観念を中心に考えた判例って紹介されてたんだけど・・・。ちょっとごまかしておきましょう)ということで、類似性判断は難しいってことです。
・・・・先生、ちゃんと判例勉強してます?!
も、もちろんよ。くじ運もらうためにも頑張ってます。たしかにこの事件わかりにくいので、別の観点から判例を紹介しましょう。これも若干古いけど平成3年1月24日の東京地裁の判例。「MICROLON」と「MAKROLON」はミクロ、マクロと最小、最大と違う意味を持つことは、みんな知っているから意味が違う、したがって観念が異なるとして非類似とされました。30年前にみんなミクロとかマクロって知ってたのかちょっとわからないけれど、そういう判例もあります。この商標が付される商品は、石油関連の原材料のようなものなので、ここでいう「みんな」はそのような商品を購入する人たち、「需要者」っていうのですが、そういう業界の皆さんには違いがよく分かるという判断だったのかもしれませんね。商標の類似性は、侵害があるかどうかの時点の需要者を基準に判断されるので。
ふうん。
どこが要部かも非常に重要なんだけど、先に外観と称呼の類似性の話をしてしまいましょうね。外観に関しては最近の判例があります。知財高裁令和2年7月8日の審決取消請求訴訟判決、つまり、特許庁が商標登録を認めないという判断をした審決を取り消してほしいという訴訟に対して、裁判所はこれを認めませんでした。原告の登録しようとしたのは、文字商標というより、ロゴ商標といってもいいもので、お見せしているようにMaharajaという文字が赤い文字で、個性的な文字でかかれ、その中に黒でこのMaharaja Groupという文字が書かれたものでした。
インド料理店などに対して用いるものとして、引用商標にはこれを大文字で書いたものや、やはり個性的なJの上の横棒をながく伸ばしたものなどがあげられていました。
類似性を判断してもらえるようにあげられた引用商標もMAHARAJAと大文字にしたものと下のようにロゴ化したものと、があげられていました。
原告としては、引用商標があってもほかにもマハラジャっていう音のインド料理店ってたくさんあるから外観の違いが重要だって主張したんだけど、裁判所は、称呼と観念が同じだから登録は認めないって言ったんです。これも侵害事案じゃないからちょっとわかりにくいけれど。ちなみにマハラジャって大王という意味だそうです。私も判決読んで初めて知りましたが。判決にも出てくる、京都のマハラジャさんは、京都のインド料理の草分けのようなお店で、タンドリーチキンがおいしくってね。
先生、脱線してたらくじ運あげませんよ。
えっとそれでは、称呼に関するものとしては、いろいろあるけど、私としてはおもしろいと思ったのは、Berry Mobile事件(知財高裁平成22年3月17日判決)。Black Berryという登録商標と類似していて登録できないかが問題となりました。植物のブラックベリーは、私庭で育ててて、これが簡単!と、また脱線するとくじ運もらえないので、通信機器のBlack Berry、スマホに完全に置き換わるかと一時は思われたけど、根強い人気があるようですね。今も結構アメリカの人たち使っています。Berry Mobileも同じく通信機器に付される商標だったので、このベリーモバイルという音の中で、重要な部分はBerryだとされました。するとBlack Berryと称呼とそれから観念で同一または類似だとされて、登録はできないとされました。
これらを見ると、さっき、キンサン事件で議論になったどこが要部かっていうのが重要だってわかるでしょ。ということで次回は要部とはって話をしましょうね。これくらいでくじ運くれる?飛行機の中でつけるパックを買いに行かなくちゃならないの・・・。
難しいってことしかわからなかったけど、大丈夫、くじ運ちゃんと上げます。
(2023年2月1日公開)
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