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不正競争防止法⑧―ドメインネーム

この話の登場人物


  N弁護士

来人(らいと)君

かつてN弁護士の個人情報保護法のクラスで講義を受け、

近頃、マーケティングや広告のコンサル事業を起業。


 

1.ドメインネームあれこれ





先生、前回はしょうこさんとご一緒できず、失礼しました。






今日はらいと君おひとり?







今度はしょうこさんが、上司から稟議書にだめだしされて、今頃書き直している最中だと思います。





稟議書って日本独特のシステムなので、国際仲裁なんて担当していると“Ringi”って、証人尋問でも日本語のまま出てきちゃうもんね。悪いシステムってわけじゃないけど、確かに時間がかかっちゃうね。べそかいてないといいけど。




それにしても先生、髪伸びましたね。






ウルフカットのつもりが、クラゲカットになっちゃったんだけど、これ!って目標がもう終わっちゃったから、なんだか気合がはいんなくて。




SSAすごかったんでしょ。







それは、もう!アリーナにたどり着く前からすごかった。






はあ?





5時スタートのコンサートに2時に東京駅着の新幹線に乗ったら通路挟んだ席のお二人の方もコンサートに行く人だったし、翌日は午前ちょっと仕事があったんで、午後の飛行機に乗ろうとゲートで待ってたら、2~3席向こうに座ってる女性が「きのうJulieのコンサートでねえ」ってお電話されてました。全国からファン集結だったのよ。



経済効果チケット代だけじゃないんですね。





そんな野暮な分析しないでよ。一曲目のシーサイドバウンドからみんなたちっぱで3時間半、休憩中にお手洗いに行った人は本当にずっと立ちっぱなしだったと思うけど、それはそれは濃密で素敵な素敵な時間でした。興奮してアドレナリンが出すぎると、後脱力するって聞いてたけど、そんな感じ。というわけで仕事ばっかの毎日よ。





じゃあ今日はちょっと息抜きって、感じで、例のドメインのこと教えてくださいね。







うん、いくら脱力しててもその辺はぬかりなく調べて今日に臨んでるのよ(本当は、ご相談があったので下調べしてただけ)。






うちのクライアントの中にも、ドメイン名取られちゃって困っているって会社もあります。そもそもドメイン名って何を指すんですか?




まず、ドメイン名の登録制度からお伝えしておきますね。簡単にいうと、インターネットや電子メールのアドレスのことです。実はこのドメイン名は、ある私的な団体が一元管理しています。なので、みんなこのアドレスをこの団体に登録してるのよ。




でも最後が、.jpとか、.comとかいろいろ違うじゃないですか?






The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers (ICANN)に全部のアドレスは登録されているの。この「知財って何」のアドレスもよ。そうでないと同じアドレスを持つ人がいることになって混乱するでしょ。





さっきの最後のところの違いの話はどうなるんですか?





そのドメインネームの最後のところ、Top Level Domain(TLD)っていうんですけど、それを管理しているのが国や団体によって異なっていて、ICANNが認定している機関が最後のTLDを管理してます。たとえば.jpがTLDの場合は、一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)という登録機関がICANNに認定されていて、その管理を日本レジストリサービスという団体に任せていて、そのレジストリサービスが副次的に業務委託をしているいくつかの指定業者さんがいます。そこに登録申請をするんだよ。この知財って何の.infoは、まさに情報提供するためなどに使われるgTLDで、2001年に登録が開始されたようです。




gTLDってなんですか?







general TLDってことです。.infoのほかにも、.com, .net, .org、などがあります。








なるほど、じゃあ、僕の会社にぴったりのドメイン名を取ろうとして、.jpでは、誰かほかの人が登録してても、.infoなら取れるかもしれないってことですね。





答えはイエスともノーとも言えます。







えっ?だってTLDが違うから、違うアドレスなんでしょ?なんでNoの場合があるんですか?




いよいよ本論に入ってきたわね。らいと君のように、自社の名前にちなんだアドレスのTLDがすでに登録されているときにほかのTLDでドメインネームを取ろうとすること自体に問題があるわけじゃない。でもらいと君は、先に登録されているアドレスと間違えられてしまうってリスクがあるよね。だって普通、人は、TLDの前の部分をみて、ああこの会社のアドレスだとか、この商品名のアドレスだって思っちゃうでしょう。全然事業内容が重ならないし、仮に間違われても、困らないっていうのなら、いいけど、間違われると困るってアドレスもあるよね。




そうですね・・・。そうすると、間違われちゃ困るって思う、最初に有名な名前を持っているいる人は、gTLDも含めて、全部のTLDを取らないといけないんだ!!!





いえいえ、そんなことしてたら登録費用がばかにならない、事業を行う可能性のある国とか、.comのように有名なTLDは押さえておいた方がいいわね。





そうすると、さっき僕が言った、クライアントがドメイン取られたっていうのはどういう場合なんですか?





私の言ったNoの場合ね。つまり、有名なドメイン名のTLDを違うものにして、まだその有名な名前が、その有名な名前を持つ人に登録されてしまう前に、誰かが登録してしまうと、有名なドメイン名を持つ人は、それだけでお客様を逃すかもしれないし、そのアドレスに誘導されたり、特に今のようにFishing詐欺などがあると、全然違うアドレスに誘導されていく可能性が高くなるから困りますよね。それを狙って、有名になってきた名前をドメイン名にして、まだ登録できてないけど、その会社のお客様が間違えそうなドメイン名を取得しちゃうってことをする人もいます。でもって、有名な名前を持っている人に売りつけちゃうとか。





商標の時に教えてもらったのと同じ問題が起こるってことですね。






そういうこと。







それは、先生がNoっていうんだから違法だってことですね。






不正な目的に基づく場合は違法となります。日本だと不正競争防止法の2条1項19号「不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為」が不正競争行為だって定められています。




不正の利益を得るとか、他人に損害を与えるとか、同一とか類似とか、裁判で争うしかないんだとすると、とっても時間もお金もかかりますね。




うふふ、それはそうでもないの。知財訴訟を悪く言うわけじゃないけど、確かに、裁判は時間もお金もかかります。そこで、各登録機関は、それぞれ、紛争処理手続きを持っていて、例えば.jpがTLDであれば、日本知的財産仲裁センター(JIPAC)が紛争処理機関として登録されていて、その機関に、有名な名前を.jpというドメイン名に登録されちゃったと申し立てることができます。

そうするとJIPACは、登録名を持つ人に、一定期間内に答弁書を出すように言って、その両方を見て、仲裁人が不正な取得かどうかを裁定します。不正な取得って裁定が下ったら、日本レジストリサービスに連絡が行って、登録の取消しまたは登録の移転がなされます。全部合わせて2か月ほどで終わりますよ。登録取消しや移転の裁定にどうしても不服がある場合は、登録者は裁判所に提訴できます。ここからは通常の裁判と同じね。でも、登録者が不服を申し立てて裁判にまでなるケースはほとんどないですね。



先生、裁定の結果で、登録取り消しまでやってもらえるのは有名な名前を持つ人にとって、とても有利ですが、ほかの国や、gTLDでも同じなんですか?






ほかの国までは調べられなかったけれどgTLDのことは少し調べましたよ。






ややこしいんですか?





まあね。WIPOというジュネーブにある国際機関が紛争処理機関で、そこで用いられる言語は登録合意書に言う言語となっていて、その合意書の7.11条は英語が正式言語ってしているので、英語で手続きをしないといけないのが難点と言えば難点ね。でもサンプルフォームもあるし、電子メールで、また弁護士をつけなくても申立てできるので、日本の手続きとそんなに変わらない、言語の問題さえなければむしろ便利かもしれないわね。仲裁人が一人の場合の手続き費用は1500ドル、今円安だから20万円~25万円くらいかしら。



自分で英語で、有名だって書くのはちょっと難しいかなあ~。








そんなときのために私が居るわけ。もちろん、この講義と違って弁護士費用は掛かるけれどね。







今日はシビアな話で終わるんですね。









私も時には真面目に弁護士しなくっちゃね。





(2023年7月19日公開)

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