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不正競争防止法⑥―周知表示や著名表示を真似ると!

この話の登場人物


  N弁護士

商子(しょうこ)さん 来人(らいと)君


 

1.不正競争防止法とは



先生、お久しぶりです。4月になって新入社員の皆さんが入ってきて、私もまだ、入ったばっかりなんでって言い訳難しくなってきました。今日はらいと君が一緒で心強いです。あれ、先生なんだか、髪伸びてません?




(中の人のコメント)今はこんな感じです。






しょうこさん、その話を振ると・・・。(またジュリーの話になっちゃって、法律の話どっかに行っちゃうよ~。)




何?





えっと、髪型はともかく、今日は、二人で時間も合わせて、先生に周知表示?とか著名表示のお話を教えていただくために来ました。よろしくお願いします。





ムムム。おっしゃるとおり、3人とも忙しいのに時間をあわせたんだから、しっかりお話ししましょうね。しょうこさん、この前らいと君と商標って何⑤っていう話をしたときにね、ちょっと著名表示については、お話をしたの。後で記事読み返しておいてね(https://www.chizai.info/post/shohyo5)。

 でもまず最初に不正競争防止法ってどんな法律かちょっとお話ししておきましょう。しょうこさんには、営業秘密のお話をしたときに、このことについて触れる機会がなかったから。



営業秘密、教えていただきましたね~。ずいぶん難しかったなあ。(営業秘密って法律ではどういう意味(営業秘密の要件総論と有用性)https://www.chizai.info/post/fuseikyousouboushi1





不正競争防止法っていうのは、特許法や商標法、著作権法のような完全な知的財産法とは違うんですよ。







これって「知財って何?」ってウェブサイトじゃないんですか?







多くの人は不正競争防止法って知財法だと思っています。でも、不正競争を防止するって法律の名前どおり、これは、独禁法や景表法のような不公正な取引や自由な競争を妨げるようなことを禁止する法律ともいえるんです。たとえば、この法律の18条には、外国公務員への贈賄罪なんてことも定められています。



えっ、今日は賄賂の話になるんですか?





いえ、そんなことも定められてるって話。今日お話しする、周知表示や、著名表示を侵害された人や会社には、他の知的財産権同様、差止めや損害賠償請求権が認められていますが、不競法上のこのようなことは権利ではなくて、不正な競争を止めさせるための「はんしゃ」的な利益と言われています。





反社的利益?こんどは、もっと危ない話になるんですか?







反社会的勢力の短縮形じゃなくて、光の反射と言ったりするときにつかう反射です。日本語って難しいね。





ああよかった。今日は話があちこち行っちゃって。(これなら少しジュリーのこと話させてあげた方がよかったかも。)






何か言いましたか?





先生、あの、ごたまぜの法律ってことはわかりましたから、周知表示から行きましょう。でも私ちょっと先生から前に教えてもらったような。あの、こくまろカレーと、とろけるカレーの話って周知表示の話だったんじゃあ(知的財産とは?① https://www.chizai.info/post/soron1)。


Wow!よく覚えてましたね。すばらしい。そうです。らいと君、知的財産とは?①を見返しておいてね。では、まずは、要件論に入りましょう。自分の用いている商品やサービスの表示に似たものが売られている、まねっこじゃないのと思った場合、周知表示の侵害だと言いたくなると思います。ただまず、周知表示の「表示」というのは、「氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品と営業を表示するもの」(不競法2条1項1号)でないといけません。




先生、さっきのカレーの話って確かパッケージの話でしたよね。そんなものも周知表示になるんですか?





私がずらっと法律条文並べただけなのに、よく気が付きましたね。はい、なり得ます。「得」ますっていうのは、文字に比べて、パッケージなどは、「弱い表示」なんて、言い方もするくらいで、「周知」っていえるためには、このようなパッケージが相当それを買う皆さんに広まっている、難しい言葉ではセカンダリーミーニングを持っていないといけないといわれてます。




確かに商品の包装には、普通商品名が書いてあるから、そっちに目が行っちゃって、文字なしでもその商品だってわかるってそんなにないですよね。






そうですよね。このギターって何かわかりますか?



判例時報1719号132頁より引用





もち、ギブソンのレス・ポール・スタンダードでしょ。私はボーカルですけど、うちのリードギター担当は、ちゃんと本物のギブソン(中古ですけど)使ってますからね!





らいと君、実は、このギターの形は、周知な商品表示として認められたんですよ。一旦わね。





僕だってそのくらいわかりますヨ。そっくりなのがいっぱいありま

すけど、ギブソンに似たってわかって、僕もまがい物だけど買って練習しました。ただ、ちょっとギターって僕には向いてなかったらしく・・・。



私は幼稚園の時に、今著作権で話題のヤマハの音楽教室(最高裁令和4年10月22日判決)で、母にだめだしされた、楽器音痴なので、楽器のできる人うらやましくてしょうがないの。控訴審判決(東京高裁平成12年2月24日判決)によれば、このギブソンのギターは、この変わった形状から、1973年ころには、周知性が認められ、「著名な名機」であるこのギターの「顧客吸引力」に便乗して利益を上げようとして、これに似せた精巧な模倣品であることを売り物とした被控訴人の行為は、不正競争行為として許されないと強い口調で述べつつ、1993年まで、20年以上ギブソン社が放置したことにより、「出所表示性」を失ったと判断しました。そしてかような名機に由来するとして売る被控訴人の行為もかつては違法だったけれど、提訴されたこの93年の時点では違法性もなくなってしまったって言いました。おまけっていっては裁判官に怒られるでしょうけど、これによって、余計にギブソンの「本家としてのその価値をますます高めるという営業上の好ましい面もある」って判示されました。判決読んでると、結構熱量があって、3人の裁判官のうちどなたかは、学生時代、ロックバンド組んでたのかもなんて思っちゃう。1973年、ジュリーの「危険なふたり」が大ヒットした年よね~~。



さっきのらいと君のこころのつぶやきわかった。なんでも話がジュリーにいっちゃうんだ。





いえいえ、そんなことはありません。ここでいう出所表示性が、ギターの形状のセカンダリーミーニングです。権利や利益の上に眠っていてはだめって、ご相談者にはいつも言ってるんだけど、外国で訴訟するのって大変だものね。と表示の意味がわかったところで、表示が侵害されているというためには、次の3要件①周知性、②類似性、③混同が必要です。



周知性って誰にとってなんですか、それとどうやって立証するんですか?ギブソンなら簡単そうだけど。






周知性は、「需要者に広く認識されていること」なので、ギブソンを例にすると音楽、ロック音楽に絞っていいかは悩ましいところだけど、需要者は、私みたいにジュリーの音楽を聴く人ではなく、演奏したい人ってなると思います。広く知られていることを立証するのは、とても大変。TVコマーシャルの映像をどれだけ露出しているか、広告がどんな媒体にどんなふうに流されているかや、今だとWeb広告での閲覧数などを証拠とすることになるんだけど、さっきしょうこさんが言ったように、パッケージには、名前が書かれているし、TVコマーシャルでは名前が連呼されるよね。というわけで、パッケージとか商品の形態で周知性を認めてもらうのは結構難しい。私も、内容は言えないけど、大変な思いをした事件があります。




じゃあどうしたらいいんですか?







結局名前部分を隠したものを見せて、なんのパッケージがわかりますかってアンケートを取ることになるんだけれど、原告がやるので、その母数の取り方が恣意的だって裁判所はあまり重視されないって聞いたことがあります。



だから先生、商標のことで、僕がいろいろ教わったとき、やっぱり取れるなら商標登録しておけって、言われたんですね。その意味もやっと解りました。





周知表示って認められたら、類似かどうかは簡単ですよね。並べてみたらわかりますものね。





類似性の判断は、原告の表示と被告の表示を並べて行うのじゃないの。並べてみると、人間ってやっぱり間違い探しして、似てない!ってなりがちだから。





そういわれればそうですね。じゃあどうするんですか?





離隔観察といって、その商品が売られている環境、たとえば日用品なら、ドラッグストアやスーパーで置かれている状態で、似ているかどうかを判断してもらいます。私なんかそそっかしいから余計だけど、似ていると思われる可能性は、格段に高くなります。さっきのギブソン判決じゃないけれど、似たものを作る人はそれを狙ってるんだから、その観察方法でいいと思います。そういうのをフリーライドっていいます。覚えておくと、わかってるねっ!て言ってもらえるよ。



やっと最後の要件ですね。混同って、なんで要件になってるんですか、周知な表示が、類似してたら、そそっかしい先生でなくても、間違っちゃうつまり混同しちゃうんじゃないんですか?





実は、そんな見間違えるっていう狭義の混同だけに限らず、似てるけどそっくりまねっこじゃない、でもこの商品作ってるところ一緒じゃない、このサービス、原告に関連しているところがやっているんじゃないっていう、出所の混同って、いうんだけどこんな広い意味での広義の混同も含むんです。つまりこの3要件は、ある意味三位一体ってことだと思ってもらっていいかな。





先生だいぶ長くなっちゃったんで、著名表示のこと、簡単に教えてもらえますか?





著名表示(不競法2条1項2号)の著名性は、日本でってことだけど、全国的に知られているべきかは、いろいろ考えがあります。裁判では、一地域だけだからだめっていったものは無いようです。また誰にとってかというと取引者や最終消費者のどちらにも広く知られている必要があるということになります。






先生、周知性を認めてもらうのだって大変なのに著名性を認めてもらえるものってすごく限られてるんじゃないんですか?なんでこんな条文が要るんですか?






僕がお教えしましょう。それは、えっとダイルーションだっけ、希釈性ともいいますが、その類似の商品やサービスを著名表示の持ち主がやっているとは思わないけど、なんか関連性があるように見えて嫌、簡単にいうとブランド価値が下がるって場合をこの条文で保護してるんです。だから混同って要件がないのです。って先生合ってます?




どうやら私はお役御免のようね。ご名答。しょうこさん、これって、さっき話しかけたこの前の商標の話⑤でシャネル事件の話をして、きっとらいと君勉強してくれたんだね。二人ともその調子で頑張って。では今度は、形態模倣、いわゆるデッドコピーの話をしましょうね。





(2023年4月26日公開)

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