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不正競争防止法、営業秘密③ 営業秘密、非公知性の要件

更新日:2023年7月31日

この話の登場人物

  N弁護士

商子(しょうこ)さん

製造会社に新入社員として入社し、知的財産部に配属された。

大学時代にともにバンドを組んでいたT弁護士の後輩。




なんか髪色素敵ですね。





しょうこさんにあんまり、年、年って言われるからっていわれるから・・・っていうのは、嘘。ふふふ、Julieのコンサートのためのリスペクトで、おしゃれしてみたの。



コンサートのためのリスペクト?先生の方見てくれるとも思えないのに?





Julieも京都のご出身で、若いころの趣味は歌舞伎って話が出てくる動画を見たことがありますが、京都の人はお正月に着物を新調せず、その前の月12月の南座での歌舞伎の顔見世の時に着物を新調して見に行って、お正月はその時の着物を来ていたそうです。孝玉の「桜姫」なんて、これは顔見世の時ではないけれど、それはそれは、ご両人ともお華があってきれいだったわね~。舞台に立つ方への観客のリスペクトは今も昔も変わりません。



タカタマとか、何かも知りたいんですが、今日は、3要件、秘密管理性、有用性ともう一つの最後の要件、非公知性について教えていただくんじゃ・・・。



歌舞伎のことも話出すと止まらないからねえ。でも孝玉の意味だけは先にね!今から40数年前、私がまだ20才の受験生のころのことですが、京都の南座で片岡孝夫さん、今の片岡仁左衛門さんね、それと坂東玉三郎さんの2大主役の全幕物の「桜姫東文章」っていう歌舞伎がありました。アルバイトでためたお金をつぎ込んで、大向こうの隣、ま、簡単にいうと一番上の安い席ね、で見てました。


どうやったら、要件論に戻るんだろう・・・。






大丈夫、もどしますよ。たとえば論文発表でその情報のことを書いてしまっては公知となってしまいますね。先日の秘密管理性と若干かぶる議論ですが、第三者に情報提供する場合もあるとでしょ。そんな場合、必ず先に秘密保持契約を結んでおいて、第三者が勝手に発表しちゃったりしないようにする必要があります。覚えておいてね。





ははあ!




また前回の機械の設計図の事件では、相手方から、機械を売っている以上、機械をばらしたら、逆に設計図って作れるんだから設計図は公知だと主張されました。こうして機械を分解して、その仕組みを知ることを「リバースエンジニアリング」っていいます。技術開発部の方と会議するときは時々出てくるかもしれないので覚えておいてね。




えっと、リバースエンジニアリングできるから公知っていうその主張はどうなったんですか?




こちらの事件は私たちが一部(といっても約5億円)勝訴した事件だから、ちゃんとうまく反論できました。実は設計図には、寸法のほかに、どれくらいゆとり、つまり、長さ5㎝と書いてあるねじが、4.9cmでも大丈夫なのか、5.05㎝だったらどうかという、ゆとり、これを「公差」っていうのだけれど、これが書き込まれています。いくら機械を分解しても、公差まではわからないでしょって主張をしました。また、そりゃ確かに測れば、寸法自体はわかるかもしれないけれど、9万枚分、分解して全部を図るなんてその費用を考えたら、普通出来ません。したがってそんなしっかり測らないとわからないものは公知ではないと裁判所には思ってもらえました。




へえ~。裁判って面白んですね。






裁判記録になっているからお伝えしてもいいと思ってるんだけど、9万枚もの設計図、前回お話しした投資マンションの顧客情報の事件と違って、とても実際に書類をコピーなんてできませんし、会社におかしいっておもわれちゃうでしょ。この事件は、ある意味その部門全体での企みだったので、事件としては営業秘密の侵害事件だけではなく、従業員の引き抜きの事件も対象となっていたんです。





引き抜き?





歌舞伎用語の引き抜きじゃないのよ。従業員の引き抜きも一人や二人なら、ヘッドハントなんていって許されますが、大量に引き抜くと、それ自体が不法行為になります。でも、今日は、そのことを話したいのじゃないの。もともと1990年代の事件ですから、設計図はCADを使って書いていても、全体として管理されていなかったんですね。それをその部門の責任者が、それでは使い勝手が悪いからって、手書きのものも含めて全部デジタル化して、わかりやすいように分類したんですよね。会社としては、そのあたりで、何かおかしいと気が付けばよかったんですが、その意味をそのまま受け取ったんですね。




はい、それで。





そう、見やすいように整理され、かつ、デジタル化されてしまうと、コピーは簡単。といっても今のような大容量のUSBや小さなHDや、ましてクラウドサービスなんてなかったので、MO?に保存されて、そのコピーが持ち出されたとおもいます。10数巻あったかな?



MOって知りません。






うん私もその時しか使っていません。次回、侵害事件の裁判の話をするけれど、営業秘密が特定されているかは、激しく争われる論点の一つになります。そこで、私たちは、弁論準備手続きの際に、裁判所のテーブルに、ど~んと十数巻並べて、もう侵害されて使われてしまったので、このMOそのまま裁判所に提出します!これ自体が営業秘密です、なので、もう特定の問題については、文句ないでしょっ!って、私啖呵切ったわね~。裁判所から、いやいや、保管の問題もあるのでって、今日のところはお持ち帰りくださいっていわれました。



なんか、姉御っていうんですか、(映画でしかみたことないけど、みたいな、こわそうな)女弁護士さんですね~。




やっぱり、そのくらいの意気込み見せないとね!でも言葉はもうちょっと上品に言ったつもり・・・。






(どうだかなあ?)ぼそっ



なんか言った?





いえいえ、でもそうやって裁判所に設計図のデジタルデータ出しちゃったら、秘密じゃなくなるんじゃないんですか?憲法の講義で、裁判は公開でなければならないって習いました。



勉強してるなあ!そうです、そのまま出してしまうと、まさに非公知性が失われてしまいます。そこで、第三者には見せないで下さいという、難しい言葉でいうと「閲覧制限」の制度(民訴法92条)があるので、営業秘密にかかわるものを提出する際には、必ず、この閲覧制限の申立てという別事件になるのだけれど、この申立をします。このような事件を担当する弁護士が、これを忘れることはないけれど、覚えておいてね。



閲覧制限?




この制度は、営業秘密以外の知財の事件でも使われることがあります。特許権の侵害事件等でも周辺の営業秘密も侵害立証に必要になったりするでしょ。若干余談になるけど、東京地裁では、その時点では、日本にはないはずの、ProtectiveOrderというものが出されたこともあります。第三者だけでなく、当事者も開示が制限されるというものです。その後、それ自体立法化されて、秘密保持命令という制度となりました。事件の当事者も秘密保持命令に違反すると刑罰の対象となります。代理人弁護士も同じ、なので、この命令が発動されないよう、ご依頼者にしっかり秘密保持をお約束いただきます。



はあ、裁判が先行して法律になるなんて、映画じゃないけれど、本当の事件もいろいろあるんですね。



話はさらに進んで、米国では当たり前のAttorneys’ eyes onlyの制度の導入、つまり、弁護士だけしか見ちゃだめって制度の導入も今(2022年段階)で検討されています。



Eyes Only 知ってます。Spy & Familyでも出てきます。

読んだら廃棄ってことでしょ。




この場合は弁護士だけが見て、廃棄はしないの。でも日本のように本人訴訟も多い国で、制度的に成り立つか、裁判を受ける権利を害することにならないか、よく考える必要があります。





そうか、相手の言っていることをわからないまま訴訟が進むって、本人からしたら怖いですよね。



なにはともあれ事実は小説より奇なり、いろんな事件、クライアントの皆さんにとっては本当に大変なので、面白いと言っては罰が当たりますが、知的好奇心をくすぐられることは間違いありません。次にいらしたときは、営業秘密の侵害の形態やどう守るかのお話をしましょうね。Julieのコンサートももう行っちゃたし、多分髪は、もとにもどっていると思います。「桜姫」は数年前に、東京の歌舞伎座で再上演されましたから、ウェブでチェックできますよ。




(まだ言ってる。)はい、了解です。





(2022年11月21日公開)


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