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不正競争防止法、営業秘密④ 営業秘密、侵害が起こったら、どう対応するか

更新日:2023年7月31日

この話の登場人物


  N弁護士

商子(しょうこ)さん

製造会社に新入社員として入社し、知的財産部に配属された。

大学時代にともにバンドを組んでいたT弁護士の後輩。




先生のセミナーも終わっちゃいましたね。12月も近づいてきますが、先生何か楽しいイベントあるんですか?




セミナー前は、映画にも行って、Julie尽くしだったんだけど、来月の顔見世もいかないし、仕事仕事の毎日よ。しょうこさんは?と聞きたいところだけれど、若い人にプライベートを尋ねると嫌がられるからなあ。真面目に営業秘密侵害されたらって話しましょうか?




盛り下がってますね。





1.営業秘密の侵害の契機と態様



イベントは終わっちゃうとねえ。さあ、気を取り直して、侵害が起こったらの話をしましょう。





なんか、侵害っていわれてもピンとこないんです。だって、どろぼうと一緒でしょ。なんでそんなことをするのかなあ。




そうね、この前も話したとおり、日本での営業秘密の不正取得事件は、70%近くが内部者の関与といわれています。裁判までになる事件はほぼ100%内部者が関与しています。




会社の備品こっそり持って帰るのと同じってことですよね。




そう、でも情報って目に見えないので、勘違いする人もいます。それに、内部の犯行者はほぼ、会社に不満を持っている人で、恨みを晴らすって意味もあるように思います。加えて、競合他社の中には、そんな人を探している会社もあります。そうそう、先日もYahoo Newsで警視庁公安課が、企業秘密がどのように不正取得されるかのドラマを作成して、11月9日から公開するって言ってましたよ。




そうか、恨みを持っているところに、こっちにおいでって誘われるとふらふらと営業秘密を持って行っちゃうってことですか?




私が最初に扱った事件は、もっと部門ぐるみだったと思っているけれどね。でもやっぱりその部門のトップの人たちは不満を持っていたのだと思います。他部門に比べて扱いが悪いって。



後の30%は?





いわゆるサイバー攻撃ですね。これからはもっと比率が増えるかもしれません。それに他国からの攻撃が多いから、なかなか犯人が特定できないし、できても裁判を起こすのは大変です。企業は、セキュリティを上げる努力を惜しむわけにはいきません。




でもサイバー攻撃って話、それでシステムが止まっちゃってなんとかっていうのしか見たことがありません。





多分に被害届とか出さずに、請求されたお金を払っている企業が多いのだと思います。それだと、悪い組織にお金が流れるだけなので、本当は被害届を出し、かつお金は出さないでおいてほしいのだけれど。




難しい選択になるんですね。





というわけで、今日は内部者のからむ、侵害者が特定できる事件の話をしましょうね。





2.内部者が関与する営業秘密の侵害にまず、どう対応するか?



はい、まずはそれが知りたいです。




実は、まず、刑事事件にすることから考えてほしいんですね。2003年に営業秘密侵害罪というのが出来ましたが、ほとんど使われませんでした。というのも起訴状は犯罪を特定して、読み上げないといけないので、検察官が読んだとたんに営業秘密でなくなってしまうからなんです。




でもこの間も回転ずしのって報道がありましたよ。





そこで、2011年に不正競争防止法の中で、刑事手続きについての改正がなされ、営業秘密を守ったままで手続きを進められるようになり、ようやく刑事事件が本格的に立件されるようになりました。




でも著作権の海賊版とか、有名ブランドの偽物バッグ以外に知財の侵害事件で刑事事件って聞いたことがありません。





特許侵害なんか本当にそうね。まず立証が難しいという点がありますね。でも、営業秘密は、やっぱり、持っていくっていう行為があるので、痕跡が残り、立証しやすいのと、警視庁がドラマまで作成されるには、盗まれる情報には、単なる企業秘密で終わるだけでなく、武器等の製造にも使える可能性もあるんじゃないかと思います。国家のセキュリティに関するものも含まれかねないっていう危機意識があるんじゃないかな。海外に持ち出す方が、罰が重いのよ。



じゃあ、まず告訴するんですか?





告訴がなくても検察は立件可能になりましたが、やはり、被害者側の情報提供の協力が必要なので、基本的には告訴がなされます。デジタル情報だったら、アクセスログを取って、警察に渡すことになります。




うちの会社そんなことできるような準備できてるのかなあ?






PCが物理的に壊されていない限り、後からアクセスログは取れます。専門的なデジタルフォレンジックを行っているベンダーさんも各社ありますよ。




高いんでしょう?





規模にもよりますが、数十万円から数百万円ってところですね。




告訴の後はどうなるんですか?




基本的には、捜査に協力するだけです。刑事は一罰百戒っていって、一部だけ起訴されることが多いから、これでその後民事訴訟を起こすのに十分な資料がそろうわけではないけれど、まず刑事事件になることでインパクトが大きいのと、起訴資料には使われていない、膨大な資料が検察庁に残ります。




3.刑事記録の持つ意味―検察庁を保全場所とする証拠保全


それってなんか意味あるんですか?





私のチームが実際にやったのだけれど、刑事事件が終わると一定期間の後に集めた資料は元の持ち主に返されます。それまでの間に、検察庁を保全する場所として、証拠保全を行うのよ。



今日は、Julieの話がない分、難しい言葉ばっかりです。





本当ねえ。証拠保全は、訴訟の途中でも行えますが、これを行っておかないと証拠が散逸するという場合に行われます。医療過誤の事件でもよく使われています。営業秘密の事件では、以前は侵害者の会社に対して行っていました。でも強制力がないから、社内には営業秘密がたくさんあるので、たとえ裁判官といえど、入ってもらっては困りますって言われると、それで終わりでした。



なんで検察庁だったらうまく行くんですか?





証拠保全の相手方はあくまで、侵害者で、検察庁には、保全を行う場所と電源をお借りするということになります。裁判官がいらっしゃる中、検察庁も、Noとはおっしゃいません。私たちは、IT部門の方の同行も許していただけました。



だんだん冒険になってきましたね。





そう、想像した筋書き通りにはいかなかったけれど、裁判官もいろいろ工夫してくださって、相当の資料を得ることができました。あなたの会社が反対の立場になることはないと思いますが、仮にそうなったときのために、聞いておいてね。



は、はい。





証拠保全の送達は開始の一時間ほど前に相手方になされます。可能であれば、顧問の先生にお願いして、立ち会ってもらうことです。申立書以外の情報も取ろうとしていないか、手続きに問題はないかなど、チェックすることも相手方としてはとても大事です。



先生の事件はどうだったんですか?




相手方の弁護士さんが立ち会われて、相手方にとってはいいことをおっしゃいました。私たちも合理的な範囲で譲歩して、相応に公平な手続進行でした。とれた資料はお互い、おかしな使い方をしないっていう、合意書も作成しましたね。



角突き合いわせてても、合意書とかできるんですね。





そうじゃないと先に進まないでしょ。裁判というのは、基本的には、基本的には、って何度も言いたくなる場面もあるけれど、理性の場だと思っています。



それでどうなったんですか?





そのあと、資料の解析をして、膨大な資料から、刑事事件で起訴されたものとは違う、そっくりさんなデータをを見つけ出し、訴状作成に生かしました。




訴状ができたところでもうこんな時間です。先生Julieの動画見て元気出して、また次、訴訟の中身教えてください。




あはは。訴訟の中身はでは次に。                  






(2022年11月24日公開)

(これ以後は備考)

2022年11月9日警視庁・公安部が、これまで捜査したスパイ事件などをもとに、企業の情報流出の脅威を描いたドラマを公開しました。


「こんな連中に技術情報が流出したら、この国の未来が失われます」


俳優ののんさんと筧利夫さんが出演するこのドラマは、スパイに狙われたIT関連中小企業の社員が、警察官とともに情報流出を防止するために奮闘する物語です。


スパイが身元を隠して社員に接触する手口などは、これまでに公安部が捜査した事件などをもとにしていて、実際に警視庁公安部に所属していた元幹部も出演しているということです。


警視庁公安部は、「狙われることはないと思っている企業でも、危機感を持ってもらいたい」としています。


ドラマは9日から、警視庁のホームページやYouTubeなどで公開されています。


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